食品栄養学からみた 「だし」の魅力とは。【前編】

だしのおいしさは、強いうま味
日本人は早くからだしのおいしさを理解し、だしを中心として日本料理の味わいを作りあげてきました。
だしのおいしさの特徴として、非常に強いうま味があることが挙げられます。濃いうま味を安定して引き出すために、乾燥した昆布やカツオ節、煮干し、焼干し、干し椎茸などの保存性の高い食材の製造法が古くから確立されています。
理にかなった合わせだし
だしのうま味を語るときに忘れてはならないのがうま味の相乗効果の発見と利用です。日本の代表的なだしの材料である昆布にはグルタミン酸やアスパラギン酸などのアミノ酸系のうま味が特別に豊富に含まれます。一方、カツオ節や煮干し、などには核酸系のうま味であるイノシン酸が含まれ、干し椎茸には同じく核酸系のグアニル酸が含まれています。
アミノ酸系のうま味物質と核酸系のうま味物質を混ぜ合わせると、うま味の強さが突然に何倍にもなることが日本人科学者によって発見されました。両者の共存が舌の表面にあるうま味受容体への吸着を強め、うま味受容体をより長く刺激することが明らかにされています。相乗効果をうまく利用した日本の合わせだしは、驚異的と言えるほどの強いうま味を発揮します。

うま味は、人が本能的に欲する味
うま味は日本人特有の嗜好ではなくて、人間にとって先天的に好ましい味であることが新生児を使った実験で明らかにされています。
人間が生命を維持するためにはタンパク質が必要です。だしのうま味はタンパク質の原料となるアミノ酸と体タンパク質合成の設計図である遺伝情報を担う核酸の味で、これらの味を好ましく感じて摂取することで身体のタンパク質がうまく維持できるのです。
だしは、日本料理の「調和」の要
日本のだしは外国の濃厚なスープとはコンセプトが異なります。欧米や中国料理などのだしは、食材を長時間煮ることで、油脂分やゼラチン質など多様な呈味成分を積極的に引き出します。一方、日本のだしはうま味成分のみを短時間でさっと取り出し、余計な味や風味が出てくるのを避けているのです。日本のだしには雑味がなく、料理に使った時に素材の味わいを邪魔しません。早春の筍、続く山菜、夏には冬瓜、秋のキノコなど、季節の味わいにこだわることで、自然を敬い、身近に感じる感性が育まれてきました。日本料理には海外の料理のようなメインディッシュがありません。素材の持ち味を生かした多数の皿がおいしさを構成しています。日本料理が最も大事にするところは「調和」です。これらの料理に調和を与えているのがだしのうま味なのです。
だしは、日本古来の食生活の知恵
日本では、奈良時代以来、仏教の戒律を遵守する食の文化の影響があり、牛馬や豚などの獣肉を口にしませんでした。魚は地域によっては手に入りましたが、卵や鶏肉は贅沢品。砂糖も贅沢品でした。
油糧植物の菜種は栽培されていましたが油は主に灯明に使われました。
おいしさの鍵とも言える砂糖と油脂が手に入らないのですから満足感のある食生活を営むことが難しい時代です。このような制限された食生活の中で私たちの祖先はうま味に満足感を求めました。野菜やキノコの他に、うま味に富む味噌・醤油、味醂などの発酵
食品を積極的に利用しました。
日本は四方が海に囲まれ、南北に長い地形ですから、寒流域で生息する昆布や、暖流に乗ってやってくるカツオなど、海から供給されるうま味の素材が探索されました。風土と文化の制限のなかでおいしく食べるためのぎりぎりの選択が日本食での幅広いうま味の
利用に到達したものと思います。
参考資料:「だし」でおいしい健康レシピ
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