地方ならではの極上フレンチを!福島県いわき市の『Hagi フランス料理店』を徹底取材

最近は東京や大阪などの大都市だけでなく、地方にも美食を味わえるレストランが増えてきました。お店によってスタイルは様々ですが、産地の強みを活かした地方のレストランには都心のお店には無い魅力が詰まっています。多少アクセスが悪くても食べに行きたいと考える人は多く、今回ご紹介する『Hagi フランス料理店』も北方ならではのフレンチレストランの一つ。

福島県いわき市の漁港から15分、畑から10分という抜群の立地で、採れたて食材にこだわるこのお店。今回はフードマニ子が実際にお店を訪れてその人気の秘密に迫りました。

シェフが惚れ込んだ食材だけがテーブルに並ぶ

朝に採れたばかりだという太いアスパラ

コースはまず、シェフの挨拶とその日使用する食材の紹介から始まります。『Hagi』で使われているのは、そのほとんどが福島県内で生産・収穫された食材。どれもシェフ自ら生産者の元へ足を運んで厳選した上質なもので、彼の手によって極上のフレンチへと姿を変えるのです。

震災の苦難を乗り越えてきたからこそ磨き上げた食の知識

オープンキッチンでシェフとの会話も楽しめます

以前は『フランス料理ベルクール』という名前で、たくさんのスタッフを抱えていた萩シェフ。しかし震災以降、原発の風評被害で客足はぱったりと途絶え、とてもお店を続けていくことはできなくなったとのこと。

そんな中でも「いまできることをやろう」とシェフがまず取り組んだのが、地元福島の食材を知ることでした。お店を閉めている間、シェフは何度も農家さんを訪れその作業を手伝ったのだと言います。

椎茸はシンプルに薪で焼いて塩と

それまで彼は野菜にしても魚にしても、市場に並ぶ食材を「高いものは美味しい」という基準で選んでいて、目利きの技術はなかったそう。しかし、こうした生産者とのつながりによって、彼は市場で買うだけでは分からなかった食の知識をたくさん得られたとのこと。

シェフがコースの冒頭、その日使用する食材について誇らしげに語るのは、震災という苦難を乗り越えてきたからこそ。震災はシェフから多くのものを奪いましたが、それがあったからこそ今の「HAGI」があるのです。

『Hagi』のウリである薪焼きフレンチとは?

快く調理風景を見せてくれた萩シェフ

オープン当初はまだ福島の食材も回復しておらず、1組のお客に出す食材を用意するだけでも精一杯だったと言うシェフ。ずっと1日1組を貫いていましたが、今ではそれも改善され、最大10名まで受け入れ可能になりました。そして新たな試みとして2021年に始まったのが「薪焼き」を使った料理なのです。

炭火焼きは東京でもよく見かけますが、薪焼きを採用しているお店はそう多くはありません。同じ「焼く」という行為ですが、薪焼きの最大の特徴は焼き上がりの水分量にあります。炭化した木を使う炭火焼とは違い、薪焼きでは水分を含んだ木材を使用します。薪で焼くとその水分が蒸発して食材へと移り、外は香ばしく、中は水分を失わずにジューシーに仕上がるのです。

薪で焼いたのどぐろ

また一見激しく燃えている薪焼きですが、シェフ曰く「焦げることはなく、食材を包み込むように優しく熱を通してくれる」とのこと。食材の旨味をさらに引き出したいと以前から考えていたシェフにとって、薪焼きはまさにぴったりな調理方法だったのです。

濃厚なソースを排除したイノベーティブなフランス料理

枝とくっついたままのタラの芽のフリット

『HAGI』の料理は伝統的なフランス料理の型にとらわれない、自由で奇抜な創作フレンチ。古典的なフランス料理は濃厚でこってりとしたソースが用いられますが、それではソースの主張が強すぎて素材本来の旨味を感じられません。

取材時、コースの1品目としてまず提供されたのは福島県産のタラの芽です。そもそもタラの芽とは全国の山に自生している、山菜の王様とも呼ばれる食材。一般的にはこのタラの木に成る新芽をいただくのですが、『Hagi』では大胆に太い枝に繋がったままの状態で登場。芽の部分をフリットにしたあとは、少し薪火にかけて香ばしくカリッと仕上げています。

また『Hagi』のある福島県いわき市は海に面した街。親潮と黒潮が交わる位置にあり、多くの海産物が水揚げされる食の宝庫。シェフはその日水揚げされた鮮度抜群の魚をコースにふんだんに取り入れており、ここでしか食べられないような料理を作り上げています。

脂の乗ったメヒカリ

特にいわき市の魚にも選ばれているメヒカリ、これを使った料理は特に格別。本来は骨ごと食べられるような魚ですが、あえて骨は取り除き薪で優しく焼き上げます。いわき沖のメヒカリは特に脂が乗って美味しいと言われますが、『Hagi』で提供されるのはその中でも特に質の良い、大ぶりなもの。その身は驚くほど柔らかく、魚とは思えないほどにジューシーです。

あえて熟成は行わない!

福島沖で水揚げされたズワイガニを根セロリのピューレと共に

多くのフランス料理店は食材の旨味をより増やすために熟成という技術を使用します。しかしそれは裏を返せば「鮮度が失われてしまう」ということ。

「これだけ新鮮な魚介が手に入るのに鮮度を犠牲にしてまで熟成を行う必要はあるのか。それではこの土地でレストランをする意味はないのではないか。」シェフは悩んだ末、野菜の持つ旨味や薪焼きで得られる風味で、旨味を補うことを決意。

取材時のデザートはこの時期限定のかき氷

「産地の強みを活かした料理」を武器に、東北屈指のフレンチレストランへと成長しました。極上のフレンチを食べに、ぜひ福島まで足を運んでみてはいかがでしょうか。

Hagiフランス料理店

住所

福島県いわき市内郷御台境町鬼越171-10

営業時間 ディナー 18:30~/19:00~
定休日 無休
  ※記載のデータは取材時のものです。