枯渇する海を救う 淡水魚という選択肢【持続可能なガストロノミー⑤】

特定の魚種に消費が集中すれば、生態系は崩れ、資源の枯渇につながります。この海の危機に対し、「ラチュレ」の室田拓人シェフが提案するのは、視線を海だけでなく、川にも向けること。淡水魚の可能性を広げる一皿を、ふれんちハンターが紹介いたします。
自然はすべてつながっている
ジビエを通して森の生態系と向き合ってきた室田シェフが意識しているのは、陸上だけではありません。山で鹿や猪が増えすぎて緑が減れば、露出した土が川を経て海へと流れ込み、水質の悪化を招きます。森と川、そして海は、決して切り離されたものではなく、ひとつの大きな連鎖の中にあるからです。

海の未来を考える料理人チーム「Chefs for the Blue(シェフス フォー ザ ブルー)」のメンバーでもある室田シェフは、この広い視点から、海の資源を守るためのアプローチを実践しています。そのひとつが、海産物ばかりに偏りがちな魚の選択肢を広げ、淡水魚を積極的に活用することです。自然環境全体を俯瞰し、日々の食材の選択肢を少しずつ広げていく。それが、室田シェフの考える持続可能な選択です。
先入観を覆す、身近な川の恵み
日本には鯉こくや甘露煮、フランスにもクネルやマトロートなど、各国に淡水魚の豊かな食文化があります。しかし、日本のスーパーでは、鮎やニジマスを除けば、淡水魚を見かける機会はほとんどありません。そんな淡水魚の中でも室田シェフが特に注目するのが、身近な存在である鯉です。
「泥臭い」という先入観がつきまとう食材ですが、その味わいは生育環境によって大きく異なります。シェフが好んで使っている長野県安曇野で養殖された鯉は、澄んだ湧水で育てられており、イメージとはほど遠いクリアな味わいが持ち味。特に冬場の「寒鯉」は脂がよくのり、生で食べても十分なうま味を蓄えているといいます。

皿の上に映した安曇野の冬景色
その寒鯉を、同じく安曇野の湧水で育ったわさびと、自家製の鹿節などでマリネし、かぶのマリネと一緒に盛り合わせました。仕上げにわさびの葉で鯉を覆い隠し、液体窒素で凍らせたゆずのアイスパウダーをふりかけます。雪が舞い散る安曇野の池で、力強く泳ぐ寒鯉の姿を思わせる美しい一皿です。
鹿節でマリネするという選択も、室田シェフならでは。川の恵みである鯉を、森の恵みである鹿のうま味で包み込む構成は「自然はすべてつながっている」というシェフの哲学を、皿の上で体現しています。

かつては鯉の養殖がさかんだった安曇野でも、現在残る養殖場はわずか1軒。室田シェフの取り組みは、逼迫する海の資源を守ると同時に、失われつつある日本の淡水魚の食文化を未来へつなぐ試みでもあるのです。

【参考図書】
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★食品ロスを減らす ★持続可能性に配慮した野菜、魚介、肉類の活用 ★プラントベース食材を活用したメニューなどなど、 ■A4変・128ページ |
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