スチコンが引き立てるパティシエの感性 vol.1 「スチコン」ってなに?
「スチコン」とは、「スチームコンベクションオーブン」を略した呼び名です。飲食に携わる人であれば、触ったことはなくても、その言葉を聞いたことはあるのではないでしょうか。元々はホテルのレストランや病院の給食、大規模なケータリングなど、大量調理の現場で活躍していた加熱調理機器ですが、近年、小型のものが開発されたり、その有用性が知られるようになり、フレンチや居酒屋など中小規模の飲食店や製菓・製パン店での導入も進んでいます。
従来のオーブンとの違いは?
スチコン(スチームコンベクションオーブン)はその名の通り、熱風(コンベクション)と蒸気(スチーム)を組み合わせて加熱できる加熱調理機です。
最もベーシックな「オーブン」というのは、熱源からの直射熱で火を入れていきます。ここに送風ファンを取り付けて庫内に熱風を対流させ、食材に均一に火入れをすることができるのが、「コンベクションオーブン」です。さらに、これにスチーム発生装置を取り付け、熱を持った蒸気を対流させて加熱できるのが「スチコン」というわけです。
つまり、一般的なオーブンは乾燥した熱または熱風で加熱しますが、スチコンは湿度をコントロールした水蒸気加熱できる点が最大の特徴です。これにより、食品の水分を保ちながら焼成できるため、しっとりした仕上がりや新しい食感を生み出すことが可能になります。
旭屋出版「洋菓子の新焼成法」より
スチコンでできること
スチコンは「コンベクションモード」、「コンビモード」、「スチームモード」という3つのモード、焼成モードを使い分けることで多彩な調理に対応することが可能です。
コンベクションは熱風による加熱、スチームは蒸気による加熱、そしてスチコンで最も特徴的なのが、コンビモードで、コンベクションとスチームを掛け合わせた加熱方法になります。この3つのモードを駆使することで、一般的な調理法の大部分をカバーできるといいます。
メーカーや機種によって性能に違いはありますが、スチコンのパイオニアである「ラショナル」のものでは、グリル、ロースト、蒸す、茹でる、フライパンのように焼いたり炒めたり、ベイク、鍋のように煮込む、油で揚げ焼きにする(パンフライ)、燻製、加熱、真空調理、低温調理・真空調理、発酵、低温殺菌まで、スチコン1台で何役もこなしてくれるのです。まさに新時代の飲食店に欠かせない、ハイスペックオーブンです。
旭屋出版「洋菓子の新焼成法」より
味と栄養面でもメリットが
調理の便利さだけではなく、味わいや栄養価におけるメリットも見逃せません。例えば、野菜をスチコンで蒸す場合、茹でる時より浸出液が少ないため、食材の風味や味わいが残りやすくなります。また水に溶けやすい栄養素が食材に残るため、栄養志向のメニュー作りにも重宝します。
洋菓子への応用が進む理由
近年、スチコンの特性を活かして、洋菓子の焼成にもスチコンが活用され始めています。
近年、夫婦経理やワンオペの小規模店や女性オーナーの洋菓子店の出店も増えていて、製菓用のデッキオーブンよりも安価でコンパクトかつ安全に作業ができるため、スチコン一台で焼菓子からプリンまですべてのお菓子作りを賄う、というお店も出てきました。
また、すでにデッキオーブンは入っていたお店でも、サブマシンとして導入する例も増えています。
導入のきっかけとして最も多いのは、プリンの焼成だと思われます。従来のプリンの火入れは、デッキオーブンで、天板に湯を張って湯煎焼きするのが一般的です。焼成後には、その熱湯をこぼさないように重い天板を慎重に運ぶことになり、火傷の危険を伴う作業でもあります。また水分量が多いお菓子なので、天板のどこに並んでいるかで火の入り方がまちまちだったりと、実はとても気を使うアイテムです。これが、スチコンの「スチームモード」を使うことで、均一に火が入り、湯を張らなくても湯煎して焼いたような口当たりに仕上げることが出来るのです。
心配なのは、「本当にどんなお菓子もつくれるのか」ですよね。 「コンベクションモード」を活用すれば、いわゆるオーブンとして焼菓子からスポンジケーキまで仕込むことができます。「スチームモード」を活用すれば、プリンをつくることができます。
では「コンビモード」では何がつくれるのでしょうか。スチコンならではの機能、真価ともいうべき加熱方法ですが、製菓の現場ではほとんど使われていないのが実情です。なぜなら、プリンやスフレのような蒸すものを除いて、蒸気を加えて焼くという概念がないからです。「オーブンでいかに水分を抜くか―」、これが洋菓子焼成のセオリーだったからです。
ところが、スチコンの「コンビモード」でも様々なお菓子が焼け、しっかり湿度コントロールすることができれば、たとえば、スポンジケーキのふんわり感やしっとり感を向上させたり、クッキーやパイのサクサク感を調整するなど、かつてない食感、口当たり、おいしさに出会うことが出来る、ということが分かってきました。
その可能性を追求しているパティシエが、『菓子工房アントレ』(千葉・船橋)の髙木康裕シェフです。「プリンだけじゃもったいない。せっかくある機能なんだから、使いこなしてみたい」と日々スチコンと真摯に向き合って検証を繰り返し、蒸気の特性を掴むに至りました。
次回、髙木シェフのスチコンの火入れの検証についてご紹介します。
【参考図書】
洋菓子の新焼成法
~スチコンが引き立てる、パティシエの感性~
菓子工房アントレ 髙木康裕 著
洋菓子業界初! スチームコンベクションオーブン(スチコン)の活用を徹底解説した一冊。 焼成の新たな可能性を切り開く技術書です。 ■B5・200ページ ■4,730円(税込)
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