スチコンが引き立てるパティシエの感性 VOL.3 広がる、洋菓子の可能性

スイーツの画像

「スチコン」とは、「スチームコンベクションオーブン」を略した呼び名です。飲食に携わる人であれば、触ったことはなくても、その言葉を聞いたことはあるのではないでしょうか。元々はホテルのレストランや病院の給食、大規模なケータリングなど、大量調理の現場で活躍していた加熱調理機器ですが、近年、小型のものが開発されたり、その有用性が知られるようになり、フレンチや居酒屋など中小規模の飲食店や製菓・製パン店での導入も進んでいます。

スチコンから生まれたお菓子たち

VOL.2では、『菓子工房アントレ』の高木シェフが試みた、スチコンでのジェノワーズ、クッキー生地、パイ生地の焼き分けの検証結果を紹介しました。そこで分かったのは、スチコンが発生させる過熱水蒸気で焼成すること、食感に違いを生み出すこと、よってオーブンで焼くのとは違った表情のお菓子を展開することができる、ということでした。

Vol.3では、『アントレ』で実際に生まれたお菓子をいくつかご紹介しましょう。

生髙木ロール

生髙木ロールの画像 スチコンで焼き上げることで、驚くほどしっとり、口溶けがはかないロールケーキに。オーブン版の元祖「高木ロール」と並べて販売していて、食べ比べも人気です。

髙木シュー

髙木シューの画像 コンビモードで蒸気を加えて、生地温度を素早く均一にし、一気に生地を立ち上げます。温度設定を6段階で変え、薄皮はカリッと、中はもっちりとした食感に。

チーズスフレ

チーズスフレの画像 油脂量と空気量が多く、粉類が極端に少ない配合。蒸気焼成によって浮きやすく焼き縮みも大きいのが特徴ですが、蒸気量を調整することで形よく仕上げることができます。しっとり感を保ちながら軽やかな口当たり。

クラシックショコラ

クラシックショコラの画像 オーブンでは素朴なほろほろとした仕上がり、スチコンではしっとり濃厚な仕上がりに。その違いを活かして、商品ごとに使い分けが可能です。

カヌレ

カヌレの画像 コンビモードで焼成後、型から外してコンベクションモードで表面を焼き固め、外はカリッ、中はとろりとした食感に。冷凍しても解凍後に食感が保たれるため、冷凍販売を開始。手土産需要を掴んでいます。

アマンド・オランジュ(進化系ダックワーズ)

アマンド・オランジュの画像 アーモンド粉と卵を主材料にした非常に軽いダックワーズ生地は、一般的な形状でスチコンで焼くと型崩れして平べったくなってしまうので、型に流して焼くことに。型が厚みをキープしながら水分をあまり逃がさない役割も果たし、しっとりと仕上げることができます。

栗ごころ

栗ごころの画像 油脂の多い重めのマドレーヌ生地も、スチコンでふんわり軽やかに。栗も水分を保ち、リッチな味わいに。

また、髙木シェフは「材料の自家製」にもとても重宝すると教えてくれました。『アントレ』では地元をはじめ、信頼のおける農家から直接仕入れたフルーツなどを使い、オリジナリティのある商品開発をしています。そうしたフルーツを、スチコンがあれば手軽にコンポートやジャムにすることが可能です。また、毎年、茨城・笠間から早生で仕入れる栗も、鮮度が良い状態で大量にまとめて蒸し上げ、急速冷凍することで香りを閉じ込めることができ、都度解凍してペーストに仕立てることで、長期間和栗のモンブランを提供することが可能になりました。

自家製コンポートと栗の画像

スチコンでの自家製は、例えば鍋でジャムを作る場合、頻繁に鍋に目を配り、ヘラでかき混ぜる際に沸々としたジャムが飛んで火傷をするなんていうこともありますが、スチコンであればそうした手間やリスクも大きく減ります。

コストダウンも期待できますし、より理想の味づくりができ、他店との差別化が図れます。

ジャムの製造とコストダウンの画像

ここまで、3回にわたってスチコンによるお菓子作りの魅力についてご紹介してきました。

スチコンは、単なる「省力化のための調理機器」ではありません。自店の生地特性と向き合い、蒸気や風をコントロールすることで、これまでのオーブンでは到達できなかった食感や口溶けを生み出すことができます。

それはジェノワーズの軽やかさであり、クッキーの均一な焼き上がりであり、パイのふくらみであり、そしてロールケーキやシュー、カヌレといったパティスリーの人気の菓子の新しい魅力でもあります。

一度使えば、オーブンとは異なる可能性を感じ、さらに試したくなる。これまで“常識”と思っていた焼成法を再発見させ、発想を自由にしてくれる。まさに「新しい菓子作りの扉を開く道具」なのです。

これからの製菓の世界では、スチコンは単なる選択肢のひとつではなく、「パティシエの感性を引き立て、未来をつくる右腕」 として広がっていくのかもしれません。

上記で紹介したお菓子は『アントレ』のスチコンを活用したお菓子のほんの一部。高木シェフの著書「洋菓子の新焼成法」(旭屋出版) では数多くのお菓子が、さらに詳しく紹介されています。


【参考図書】

洋菓子の新焼成法
~スチコンが引き立てる、パティシエの感性~

菓子工房アントレ 髙木康裕 著

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スチコンで洋菓子を焼成する際のコツや考え方などを見て学べる貴重な機会です。

ぜひご参加ください。

日時:
2025年10月14日(火) 13:30~16:30
会場:
ラショナル・ジャパン 本社(東京都)
〒101-0064 東京都千代田区神田猿楽町2-8-8

参加費:
2000円(試食・お土産付き)
お問い合わせ先:
ラショナル・ジャパン

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