スチコンが引き立てるパティシエの感性 VOL.2 ジェノワーズ、クッキー、パイで探る“蒸気のちから”
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スチコンに触れ、その特性を知る
VOL.1でご紹介した通り、スチコンは「蒸気」と「熱風」を自在にコントロールできる画期的な調理機器です。そして、洋菓子の業界でも導入が進んでいること、スチコンの最たる特徴であるコンビモード(蒸気と熱風を組み合わせた加熱方法)はまだあまり活用されていない、という点についても触れました。
そんな中、千葉・船橋の『菓子工房アントレ』髙木康裕シェフは、スチコンのコンビモードの可能性をいち早く見出したパティシエです。そのきっかけとなったのは、同店の定番人気商品である「紅玉林檎パイ」。パートブリゼにクレームダマンドを流し、リンゴのシロップ煮をのせて焼き上げる、リンゴのおいしさを追求したシンプルなパイです。それまではデッキオーブンで焼き上げていました。水分量や油脂量、空気量が異なる生地に加え、コンポートが重なり、これを一度に焼いて、それぞれの理想の食感を実現するという、実は難しい焼菓子です。ある日、これをスチコンのコンビモードで焼成してみると、パイの部分はサクサクに、クレーム・ダマンドはふんわりと、リンゴは程よい食感を残してしっとり仕上がり、オーブンとの仕上がりの違いに驚いたといいます。
そしてこの体験が蒸気を活用した焼成にのめり込むきっかけとなりました。

とはいえ、モード選択に加え、温度と湿度と風量の数値を設定して最善の数値設定を探し出すのは簡単なことではありません。髙木シェフはいまも日々の製造現場でトライアンドエラーを繰り返しています。
ですが試行錯誤していくと、生地の水分量や油脂量、空気量などの特徴を理解し、どのように焼き上げたいかによって、ある程度の法則性が見えてくるといいます。髙木シェフは、著書の中で、スチコンが持ち、オーブンには無い「モード」「湿度」「風量」の要素が焼成にどんな影響を与えるかを一から理解するべく、洋菓子の代表的な3つの生地――ジェノワーズ、クッキー、パイ――での焼き分け検証を行いました。

(1)ジェノワーズ生地 ― 湿度で変わるふんわり感
パティスリーにとって、最も基本的な生地と言えるのがジェノワーズではないでしょうか。空気をたくさん含んだ生地を丸型に流し、スチコンで焼くとどうなるのか。4パターンの焼成で「モード」と「湿度」の影響を検証し、夏と冬での季節による微調整の検証も行いました。
◆わかったこと
・湿度を高めると、浮き上がりがよくふんわりとした食感に
・ただし蒸気を入れすぎると、中央だけが急激に火が入り、表面に割れが発生することも
・季節や材料の状態によって、1%単位での調整が必要になるケースも
見た目の仕上がりだけでなく「食べてどう感じるか」が重要であり、数値設定によるパティシエの表現力が問われる部分です。

(2)クッキー生地 ― 均一な焼き上がりを実現
焼菓子の中でも焼き切るイメージが強いクッキー。蒸気を加えるということは、相反することをしているようにも思います。クッキーなどの焼菓子の焼成に於いては、大量にムラなく均一に焼き上げるという点もパティスリーの命題であり、その視点も持ちつつ、焼菓子における「モード」と「湿度」の影響を4パターンの焼成で検証しました。
◆わかったこと
・スチームを少量加えて焼くことで、火の入り方が安定し、均一な焼き上がりに
・大量生産を行う菓子店にとって、大きなメリットに
一見「蒸気とは無縁」に思えるクッキーですが、実はスチコンとの相性は良好です。経営面でも効率化につながる結果が得られました。

(3)パイ生地 ― 蒸気と「風」が左右する食感
生地に含まれる空気が少なく油脂が多いパイ生地。焼成時に浮きにくい練り込み系の生地「パート・ブリゼ」を使い、さらにチーズをかけて、あえて浮きにくい状態にしたうえで、「湿度」と「風量」「モード」を変えて検証しました。
◆わかったこと
・蒸気を適度に入れると、浮きが良く軽やかな食感に
・風量を強くすると、表面の焼き色やサクサク感が増す
蒸気を含んだ熱を回す「風量」も重要な要素だと分かりました。火の入り方や生地表面を焼き固める速度が変わり、浮き方や食感にも大きな影響を与えます。

スチコンによる蒸気焼成で、お菓子の可能性が広がる
髙木シェフは3種類の生地の検証を通して「蒸気は洋菓子の食感を左右する重要な要素」であると再認識したといいます。スチコンが発生させる「過熱水蒸気」というとても高カロリーな熱によって、オーブンで焼くのとはまるで違った食感、さらには均一な仕上がりになることを実感し、スチコンの蒸気焼成によるメニュー開発を精力的に進めています。
次回はスチコンから生み出される洋菓子の魅力と、意外な活用法について紹介します。
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