時代を超えて愛される伝統の味 ポール・ボキューズ「スズキのパイ包み焼き ソース・ショロン」【パイ包み焼き⑦】

ヌーヴェル・キュイジーヌの騎手として現代フランス料理の礎を築いた世紀の料理人、ポール・ボキューズ。彼の代表作である「スズキのパイ包み焼き ソース・ショロン」は、師フェルナン・ポワンから受け継いだ70年以上の歴史を誇る料理です。時代を超えて美食家たちを魅了し続ける、不変の味わいをふれんちハンターがご紹介します。
受け継がれる伝統の味
フランス・リヨンの伝説のグランメゾン「ポール・ボキューズ」。世界の美食家たちを長年魅了してきた正統派のフランス料理を日本で味わえる希少なレストランが、東京・代官山にある「メゾン ポール・ボキューズ」です。
このグランメゾンで年間100本以上も提供されるスペシャリテが、スズキを丸ごとパイで包み、魚形に焼き上げた「スズキのパイ包み焼き ソース・ショロン」。焼き上がりを披露したのち、サービスマンが客席で切り分ける演出も含めて、その豪華かつ優美な姿は見る者を圧倒します。なんと、1人で1尾を平らげてしまう熱烈なファンもいるのだそうです。

うま味を封じ込める理想的な調理法
2024年から料理長を務める藤久周悟シェフは、この料理について「スズキがもっともおいしく味わえる最高の調理法」だと胸を張ります。
「魚を丸ごとパイで包むことで、頭や骨のゼラチン質が溶け出し、スズキの旨味も香りも余すことなく味わえます。パイ生地が蓋の役割を果たし、蒸し焼き状態にできるため、身の水分も抜けづらく、ふっくらと仕上がります。見た目の華やかさだけでなく、理にかなった手法なのです」
スズキはシェフ自身が目利きで選び抜き、3日ほど寝かせて旨味を十分に引き出してから使用します。215℃のオーブンで30〜40分、じっくりと時間をかけて焼き込むことで、パイ生地は香ばしく、中の魚はジューシーに。この絶妙なバランスが、70年以上愛され続ける理由です。

「もっとバターを!」
「メゾン ポール・ボキューズ」では、現代の趣向に合わせて料理も柔軟に進化させています。しかし、この料理だけは、ボキューズ氏の味を寸分違わず守り続けているといいます。
その味の要となるのが、ソース・ショロンに使われる圧倒的なバターの量です。
「もっとバターを!」がボキューズ氏の口癖だったという逸話どおり、藤久シェフがソーシエ時代、ボキューズ氏にソース・ショロンの味を見てもらったさいには、ソースが分離するぎりぎりまで澄ましバターを加え続けて、やっとOKが出たといいます。
生クリームの代わりにコクと香りが豊かなクレームエペスを使い、澄ましバターと濃縮したトマトペーストを贅沢に重ねることで生まれる、リッチで奥行きのある味わいこそが、ボキューズ流。トマトの酸味が効いているため、バターが多くても重さを感じさせず、驚くほどのキレのよさです。
「バターたっぷりだからこそ生まれる風味が、この料理の醍醐味。時代の潮流が変わっても、このおいしさは守り続けるべき」だと藤久シェフは語ります。

常に進化が求められるフランス料理界にあっても、変わらないおいしさは確かに存在します。そんな真理を体現し続けるのが、このパイ包み焼きなのです。

【参考図書】
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伝統の味から革新の新作まで 本書では、老舗フレンチのスペシャリテから、気鋭シェフの最新作まで、パイ包み焼きのバリエーションを紹介。冷前菜・温前菜、魚料理、肉料理、デサートと、ジャンル別に、各店のパイ包み焼きの工夫、技術を解説します。 ■A4・128ページ |
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