世界に誇る日本の食文化へ シェフが描くジビエの未来【持続可能なガストロノミー④】

提供する肉のほとんどをジビエが占めるという「ラチュレ」。自らハンターとして山に入る室田拓人シェフが見据えるのは、ジビエを日本の食文化として世界へ発信する未来です。害獣駆除の現実と向き合いながら命を生かす、その実践をふれんちハンターが紹介いたします。

海外が注目する日本のジビエ

近年、日本では害獣駆除による野生動物の有効活用が広く叫ばれています。しかし、室田シェフの目はさらにその先にある「世界」へと向けられています。

中国をはじめアジアの国々では、鹿や猪、熊などの野生動物が激減し、すでに高級食材として扱われています。また、フランスでは乱獲により狩猟が禁止された山シギ(ベキャス)も、日本には全国に生息しています。「自国では滅多に味わえない憧れの食材が食べられる」。そんな噂を聞きつけ、上質なジビエを目当てに日本を訪れる外国人観光客も増えはじめています。

室田シェフは、この海外からの潜在的な需要に着目しています。

「日本の新たな名物としてジビエを世界にアピールできれば、消費量を増やしながら地方の活性化にもつながります」

シェフが目指すのは、「ニュー・ノルディック・キュイジーヌ」のように、ジビエが日本を代表する食文化として世界に広く認知される未来です。インバウンド向けの狩猟見学ツアーなども構想し、料理の提供にとどまらない発信を続けています。

ハンターだからこそ抱く、命への責任

写真提供:ラチュレ

こうした活動の根底にあるのは、ハンターとしてのシビアな実体験です。まだ温かい動物に触れ、自分の手で命を奪う。その経験が、「いただいた命は絶対に無駄にしてはいけない」という強い信念を育ててきました。

人間が森を切り開いて生態系を崩しながら、増えた動物を「害獣」として駆除する。殺処分された動物は、9割が食用にされることなく廃棄されているのが日本の現状です。

「駆除がやむを得ないのであれば、その命に責任を持ち、余さずおいしくいただくことを考えるべき」だと室田シェフは語ります。

いただいた命への責任を果たすべく、室田シェフは上質なジビエ肉の普及を目指す「ボン・ジビエ委員会」を立ち上げたほか、出身地の千葉県が主催する「房総ジビエコンテスト」で審査委員長を務めるなど、ジビエの価値と利用率の向上に努めています。また、自身の店でも、イノシシの自家製ベーコンや鹿肉を燻して乾燥させた「鹿節」を仕込むなど、人気部位だけでなく、あらゆる部位を日々の料理に活かしています。

ヒグマの命を凝縮したパイ包み焼き

北海道産のヒグマは、もも肉やロース以外の部位はすじが多く、ローストにはあまり向きません。しかし室田シェフは、部位ごとに適切な調理法を施すことで、扱いの難しい肉をひとつのパイ包み焼きに組み立てています。

脂の多いバラ肉は赤ワインで煮込んでシヴェに、繊維が粗い赤身はミンチにしてパテに。さらに希少なセルヴェル(脳みそ)のソテーもパイの中に忍ばせました。とろりとした食感と脂が溶け合い、ヒグマならではの野性味と甘みが口いっぱいに広がります。

れる部位まで使い切り、ひとつのパイの中に閉じ込める。命を無駄にしないという信念が、そのまま形になった料理です。

【参考図書】

持続可能なガストロノミー


★食品ロスを減らす

★持続可能性に配慮した野菜、魚介、肉類の活用

★プラントベース食材を活用したメニューなどなど、
フランス料理の人気店のシェフ9名が取り組んでいる
「サステナブルな料理の実践例」を解説します。

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■A4変・128ページ
■ISBN-13:9784751114704
■4,180円(税込)