時間と手間を重ねてたどり着く一歩先のおいしさ 仔牛すね肉のブレゼ【肉の火入れ技術③】

「ブレゼ」は、素材を少なめの液体と一緒に密閉した鍋で長時間蒸し煮にするフランスの古典的な調理法です。一見シンプルに思える料理ですが、「東京會舘 レストラン プルニエ」の松本浩之シェフによれば、「煮込みこそ、料理人の真価が試される奥深い料理」なのだといいます。松本シェフが手間ひまかけて作り上げる仔牛すね肉のブレゼを、ふれんちハンターが詳しく解説いたします。

ブレゼに求める理想の肉の味わいとは

もともとは煮込んだ肉があまり好きではなかったという松本シェフ。しかし、フランス・シャモニー地方の二つ星オーベルジュ「アルベール・プルミエ」でブレゼを学び、そのあまりのジューシーさにカルチャーショックを受けたといいます。それ以来、考え方が180度変わり、煮込み料理の魅力にのめり込んでいきました。

「時間をかけさえすればおいしくなると思われがちなブレゼですが、実際に作ってみると、肉が煮崩れたり、固くなったり、芯まで味が浸透しなかったりと、納得のいくおいしさに仕上げるのは至難の技。今、私が作っているブレゼは、アルベール・プルミエの手法を踏襲しつつ、素材に合わせて微調整をくり返して完成させたものです」

松本シェフが理想とするのは、肉の外側についたゼラチン質はとろりとし、繊維は歯切れよくジューシーで、中までよく味が染み込んで、どこを食べても同じ味がすること。肉が固くなってしまうのは、煮足りなくてコラーゲンがゼラチン質に変わっていないか、逆に煮込みすぎてゼラチン質が肉から抜けてしまっているからだといいます。

おいしくできているときは、コラーゲンが水分を吸い、もとの素材のサイズよりもひと回り大きくなるので、煮上がりの目安にしているのだそうです。

煮込みっぱなしにせず、こまめに手をかける

仔牛のすね肉は骨つきのまま全体に小麦粉をつけ、皮が破れて焼き切れるイメージで強火で一気に焼き固めます。小麦粉をつけて表面を焼く「リソレ」を必ず行うことで、小麦粉の膜が表面に張り、ソースが素材によくからみます。

鍋に肉を移したら、赤ワイン、ポルト酒、カシスリキュールを注ぎます。液体に濃度があると肉のうま味が液体に出て行きづらくなるので、先に酒類だけで煮込んでうま味を液体に移しておき、フォン・ド・ヴォーはソースの仕上げで加えます。ミルポワ、ローリエ、塩を加えて火にかけ、沸いたらアクを取り除き、蓋をして180℃のオーブンに入れます。

このとき、オーブンに入れっぱなしにするのではなく、肉が乾かないように、途中で肉を何度か裏返し、こまめに煮汁をかけながら8時間かけてじっくりていねいに煮込んでいきます。

ゆっくりさまし、ラッカージュで濃厚な味わいに

煮上がったら、液体ごと4時間かけてゆっくりさますのが、ジューシーさの秘訣です。煮えたては、繊維が開いて肉のエキスが液体に流出している状態なので、ここで肉を取り出すとパサパサになってしまいます。温度が下がるときに繊維の中に液体と一緒にエキスが戻り、味が染みて食感もしっとりします。

仕上げに、煮汁にバターを加えてオーブンに入れ直し、表面が軽く乾いたら煮汁をかけて肉にからめます。この作業は「ラッカージュ」と呼ばれ、表面にうま味の膜を張ることで肉に濃厚な味がつき、見た目もつややかに仕上がります。ラッカージュを何度かくり返し、美しいつやが現れたら完成です。

ただ時間をかけるのではなく、ひとつひとつの工程をていねいに積み重ねる。その繊細さこそが、松本シェフのブレゼを一段上のおいしさへと引き上げているのです。


【参考図書】

古典技法から学ぶ
フランス料理 肉の火入れ技術


フランス料理の基礎技術の中から「肉の火入れ」に特化し、30年以上の経験を持つベテランのフレンチシェフ5名に、ロティ、ポワレなど古典的な調理法を素材ごとに詳しく解説。

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■A4・112ページ
■ISBN-13:9784751115008
■4,180円(税込)