パイ包み焼きを「付け合わせ」に 加藤順一シェフが見出した新たな価値【パイ包み焼き③】

伝統的なフランス料理と革新的なニュー・ノルディック・キュイジーヌ(新・北欧料理)の双方に精通する「ラルジャン」の加藤順一シェフ。彼が提案するのは、パイ包み焼きを主役ではなく、ガルニチュール(付け合わせ)として添えるアプローチです。
多皿コースを提供するレストランでも取り入れやすい、パイ包み焼きの活用法をふれんちハンターがわかりやすく解説いたします。
主役を引き立てる、ひと口サイズの名脇役
パイ包み焼きは重厚で食べ応えがあるイメージから、多皿コースでは取り入れづらいと考えられがちです。しかし加藤シェフは、ひと口サイズの小さなパイを前菜の付け合わせとして生かすことで、新たな価値を見出しました。
この料理の主役は、生クリームと牛乳をレンネットで固めた自家製のフレッシュチーズ。これに芽キャベツのザワークラウトを包んだ小さなパイを添えています。「発酵」という共通項で結ばれた北欧料理らしい爽やかな組み合わせです。そこに、パイ生地に含まれるバターの風味とサクサクとした食感が加わることで、料理全体に深みとコクが生まれ、リッチな味わいに仕上がります。

柑橘の香りが生む一体感
パイの中には、ザワークラウトだけでなく、和歌山県の特産柑橘「じゃばら」の皮を使ったコンポートが忍ばせてあります。ザワークラウトの酸味に、ほのかな苦味と甘味、爽やかな柑橘の香りが加わり、小さなパイの中に複雑な風味が凝縮しています。この幾重にも重なる風味が、フレッシュチーズのおいしさを引き立てるソースのような役割も果たしているのです。
さらに、パイを焼く際には黒文字の枝を数本刺して一緒に焼き上げます。黒文字が持つ柑橘系の香りを生地に移すことで、具材と生地との風味の一体感を高める狙いです。



重厚なメイン料理のイメージが強いパイ包み焼きを、爽やかなフレッシュチーズの付け合わせとして活用する。加藤シェフの自由な発想が生んだこの手法は、多皿コースにおけるパイ包み焼きの新たな可能性を切り開いています。
【参考図書】
![]() |
伝統の味から革新の新作まで 本書では、老舗フレンチのスペシャリテから、気鋭シェフの最新作まで、パイ包み焼きのバリエーションを紹介。冷前菜・温前菜、魚料理、肉料理、デサートと、ジャンル別に、各店のパイ包み焼きの工夫、技術を解説します。 ■A4・128ページ |








