持続可能な美食を追求する ウミガメのパテ・アン・クルート【パイ包み焼き④】

伝統的な「パテ・アン・クルート」にウミガメを使う――。 ジビエ料理の名手として知られる「ラチュレ」室田拓人シェフの意外性に満ちたアレンジには、小笠原諸島の持続可能な取り組みへの深い敬意が込められています。
おいしさと自然への配慮を融合させたパイ包み焼きをふれんちハンターがわかりやすく解説いたします。
資源保全と食文化を両立する小笠原
世界的に頭数が激減しているウミガメ。しかし、伝統的にウミガメ食を行ってきた小笠原諸島では、徹底した資源管理によって海の生態系を守り、食文化を次世代へと継承してきました。ウミガメ保全活動の数少ない成功例として世界から注目されるこの理想的な漁業モデルに、室田シェフは深く心を打たれたといいます。
一方、ウミガメはフランスでも古くから高級食材として親しまれ、コンソメスープや煮込み料理に使われてきました。いまや幻になりつつあるこの食文化と小笠原の持続可能な漁業を伝えるべく、ラチュレでは積極的に小笠原産のウミガメを使用しています。

ウサギとカメ、対照的な旨味の調和
パテ・アン・クルートでは、前ヒレのゼラチン質を食感のアクセントとして生かし、仕上げに流すジュレもウミガメから取ったコンソメで仕立てています。
童話「ウサギとカメ」からインスピレーションを得て、パテのベースには、穏やかで淡白な味わいのウサギ肉を選びました。スッポンを思わせる力強い旨味のウミガメに寄り添うように、ウサギ肉が全体をやわらかく包み込みます。パイ表面には亀甲模様を刻み、断面にはウサギの姿が浮かび上がるように組み立てた、遊び心あふれる一皿です。

時を重ねても失わない生地の食感
パテ・アン・クルートは、2、3日寝かせることで円熟味が増しますが、ファルスの水分が移ると生地の食感は損なわれてしまいます。そこで室田シェフは、水分を吸っても香ばしさを維持できる特製生地を考案。さらに背脂シートをパテとの間に挟むことで、焼成時に生地を揚げ焼き状態にし、ざっくりとした歯切れの良さを引き出しました。ふたつの工夫で、パテも生地もベストな状態で味わえるパテ・アン・クルートを完成させています。

こうしたおいしさへの徹底した追求は、「小笠原の人々の想いと、限りある資源を最高の形で提供したい」という強い信念の表れでもあります。
自然環境と食文化の両立を一皿に込めた室田シェフのパテ・アン・クルートは、ガストロノミーにおける持続可能性のあり方を私たちに静かに問いかけているのです。

【参考図書】
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伝統の味から革新の新作まで 本書では、老舗フレンチのスペシャリテから、気鋭シェフの最新作まで、パイ包み焼きのバリエーションを紹介。冷前菜・温前菜、魚料理、肉料理、デサートと、ジャンル別に、各店のパイ包み焼きの工夫、技術を解説します。 ■A4・128ページ |
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