パイ包み焼きの矛盾を「冷凍」で克服 石井剛シェフが辿り着いた火入れの極意【パイ包み焼き②】

クラシカルなフランス料理のおいしさを突き詰めてきた「モノリス」の石井剛シェフは、「パイ包み焼きのスペシャリスト」としても知られています。パイ生地をサクサクに焼き上げながら、中の具材を「ジュストキュイ(最適な火入れ)」に仕上げる。一見矛盾するこの課題を、石井シェフは独自の冷凍技法で解決しました。
100回以上の試作を重ねて完成させたという代表作「ピジョン・アンペリアルのパイ包み焼き」に込められた美味の極意を、ふれんちハンターがわかりやすく解説いたします。
パイ包み焼きが抱える根本的な矛盾
現代のフランス料理では、肉や魚などの素材を、持ち味を最大限に引き出す「ジュストキュイ」に火入れすることが重要視されています。しかし、パイ包み焼きでは、具材の火入れ状態だけに注力すると、周りのパイ生地が生焼けになってしまいがちです。逆に、生地を香ばしくサクサクに焼こうとすると、具材に火が入りすぎ、ジュストキュイからは遠ざかってしまいます。具材と生地では必要な加熱時間がまったく異なるため、パイ包み焼きは本来、理には適っていない矛盾をはらんだ調理法なのだと石井シェフは語ります。

冷凍状態からの加熱で両立を実現
この矛盾を克服するため、石井シェフが編み出したのが冷凍技法でした。組み立てたパイを一度冷凍し、冷凍状態のままオーブンに入れることで、生地を焼いている間に具材がじんわりと温められ、低温調理のように優しく火が入ります。
当初は具材となる肉や魚の細胞が壊れる懸念もあったそうですが、実際には生の状態から焼くよりも肉汁が出ず、味も食感もまるで劣化しなかったといいます。さらに、底面の生地を薄く伸ばす、アーモンドパウダーを敷いて水分を吸収するなど、細部にまで工夫を重ね、具材の火入れだけでなく、歯切れよい生地の食感も追求しています。


現代のクラシカルを象徴する一皿
代表作「ピジョン・アンペリアルのパイ包み焼き」は、フランス産の最高級の鳩を1台に1羽丸ごと使用し、フォアグラとトリュフを組み合わせた贅沢な一品です。鳩肉をマデラ酒とコニャックでマリネし、パイを割った瞬間に立ちのぼる芳醇な香りこそが醍醐味。肉にストレスを与えないよう、胸肉は切り分けずに元の形を生かして組み立てるため、流線形の特徴的な形に焼き上げます。
古典料理の重厚さと、現代の火入れ技術によるジュストキュイを融合させた味わいは、 伝統的な料理を独自の手法で進化させてきた石井シェフらしい「現代のクラシカル」を象徴するおいしさです。

【参考図書】
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伝統の味から革新の新作まで 本書では、老舗フレンチのスペシャリテから、気鋭シェフの最新作まで、パイ包み焼きのバリエーションを紹介。冷前菜・温前菜、魚料理、肉料理、デサートと、ジャンル別に、各店のパイ包み焼きの工夫、技術を解説します。 ■A4・128ページ |








