全部位をしっとり焼き上げる 鳩肉のロティ【肉の火入れ技術②】

塊肉をオーブンで焼き上げる「ロティ」は、フランス料理の中でもとりわけ難しい技術だといわれています。外側と中心の火入れを均一にするには、温度と時間の緻密なコントロールが求められるからです。今回は鳩の丸焼きを題材に、六本木にある「トレフ・ミヤモト」の宮本雅彦シェフが30年かけて磨き上げたロティの技術を、ふれんちハンターが詳しく解説いたします。
伝統技術を発展させ、均一な焼き上がりを追求
家禽の中でも鉄分が多い鳩は、火入れが極めてシビアな素材です。最適な火加減で焼けば極上のおいしさを発揮する一方、わずかに火が入りすぎるだけで肉は固くなり、鉄分特有の風味が強く出すぎてしまいます。
宮本シェフがフランスで修業を積んだ1980年代には、塊肉を一度オーブンに入れたら、焼き上がるまでそのまま入れ続けるのが常識でした。しかしその方法では、中心に熱が到達する頃には外側の肉は水分が抜けて固くパサついてしまいます。当時はそんな食感のグラデーションも”ロティらしさ”として受け入れられていましたが、妥協を許さない宮本シェフは、すべての部位をしっとりと極上のおいしさに仕上げるべく長年にわたり試行錯誤を重ねてきました。そうして辿り着いたのが、フライパンで全体に焼き色をつけてから、高温のオーブンと室温とを小刻みに行き来させる手法です。
油でコートし、食感にコントラストをつける
フライパンで焼き色をつけるさいは、もっとも火が入りづらい頭側を下にして強火で焼きはじめます。軽く焼き色がついたらバターを加え、鳩を転がしながら全体を焼いていきます。バターの油で表面全体をコートすることで、皮はカリッと香ばしく、肉は蒸し焼きと同じ効果でふっくらと仕上がります。
骨つき肉をフライパンで焼く場合、一般的にはスプーンで油をかけながら焼く「アロゼ」という手法を用いますが、素材とジャストサイズのフライパンを使えば、肉を転がすだけで効率的にアロゼと同様の効果が得られます。

高温と室温をくり返す緻密な火入れ
フライパンで焼き色をつけたら、いよいよオーブンでの火入れです。このときの最大のポイントは、オーブンに入れっぱなしにせず、小刻みに室温で休ませることです。
宮本シェフが好んで使うフランス・ブレス産の500gサイズの鳩の場合、200℃のオーブンで4分焼き、オーブンから出して4分休ませます。この作業を3回くり返すことで、外側は焼きすぎず、中心を余熱で少しずつ温めて、全体にまんべんなく火を入れていきます。
宮本シェフによれば、同じ芯温でも、高温のオーブンに出し入れするのと、低温で長時間火入れするのとでは仕上がりの食感がまるで異なり、高温で火を入れた時の方が歯切れよく仕上がるといいます。
鳩はもも肉が小さくてすぐに火が入るため、3回のくり返しが終わったら、もも肉は切り離します。胴体はあばら部分をはずし、さらに200℃のオーブンで3分焼き、3分休ませます。部位ごとに火入れを調整することで、すべての部位を最適な状態に仕上げられます。

素材や部位の特性に合わせて火入れの精度を高め続けてきた宮本シェフ。その飽くなき探求の姿勢が、理想のロティを実現させているのです。

【参考図書】
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フランス料理の基礎技術の中から「肉の火入れ」に特化し、30年以上の経験を持つベテランのフレンチシェフ5名に、ロティ、ポワレなど古典的な調理法を素材ごとに詳しく解説。 ■A4・112ページ |
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