旬のその先にあるおいしさ 保存を「創造」に変える【持続可能なガストロノミー⑥】

旬の時期に大量に出回る素材は、その豊富さゆえに安価で取引され、廃棄されてしまうことも少なくありません。このフードロスの課題に対し、「ル・スプートニク」の髙橋雄二郎シェフが活路を見出したのは、発酵や熟成、乾燥といった保存技術の活用でした。旬の恵みをより長く、よりおいしく届けるための実践を、ふれんちハンターが紹介いたします。

コロナ禍の危機がもたらした、新たなアプローチ

食材を長期的に活用するアイデアは、予期せぬ危機の中から生まれました。

緊急事態宣言が発令された東京では、多くのレストランが休業・短縮営業を決め、仲卸業者や生産者の間には行き場を失った素材があふれました。髙橋シェフはそれらを買い取り、「ロスフードを使った惣菜BOX」として、テイクアウトと通信販売を行いました。同じ素材を大量に仕入れることになりましたが、以前から取り組んできた発酵・熟成の技術を駆使し、多彩なメニューを長期間にわたって展開することができたといいます。

「この経験は、旬の素材との向き合い方を見つめ直すきっかけになりました。本来価値があるはずなのに、出回りすぎて廃棄されてしまう素材は少なくありません。そうした素材をいかに無駄なく使い、新たな価値を与えられるか——。今も仲卸業者から急に余ってしまった素材を可能なかぎり買い取り、保存技法を活かしながら日々の料理に取り入れています」

熟成と発酵の味わいを一皿に凝縮

この考え方は、日々のコース料理にも反映されています。

たとえば、秋から冬にかけて大量に水揚げされるブリ。新鮮なうちに使い切るだけでなく、2週間かけてじっくり熟成させることで、フレッシュな状態とは異なるねっとりとした食感と、濃厚なうま味を引き出します。

そのブリを表面だけ炭火でさっと炙り、クリームチーズ、豆腐、みかんなどで作った白和え風のソースと、発酵させた黒大根のサラダ、甘酒の泡ソースを合わせました。仕上げにワサビ菜のアイスクリームで辛味を効かせた、発酵の香りに満ちた一皿です。

使いきれない柿をソースに活用

もう一品は、和歌山県から毎年大量に届くという富有柿を使った料理です。

ル・スプートニクでは、生で使いきれない分を自家製の干し柿に加工します。乾燥の度合いによって味も食感も変化するため、その状態に合わせて料理を組み立てるのが髙橋流です。

この料理では、セミドライ状態の干し柿を焦がしバターと一緒にソースに仕立て、春菊と菊芋のピュレ、白子のフリットに合わせました。白子のフリットには菊芋の皮を張りつけて一緒に揚げ、食感にアクセントを加えています。皮がよく見える盛りつけには、素材を無駄なく、余さず使いきるというフランス料理の精神が表れています。

時間を味方につけることで、旬の素材は新しいおいしさをまとう。髙橋シェフにとって保存技術は、フードロス削減の手段と同時に、創造の手法でもあるのです。

【参考図書】

持続可能なガストロノミー


★食品ロスを減らす

★持続可能性に配慮した野菜、魚介、肉類の活用

★プラントベース食材を活用したメニューなどなど、
フランス料理の人気店のシェフ9名が取り組んでいる
「サステナブルな料理の実践例」を解説します。

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■A4変・128ページ
■ISBN-13:9784751114704
■4,180円(税込)