広がる「プラントベース」の波 肉に頼らない料理の豊かさ【持続可能なガストロノミー⑦】

地球環境への配慮から、肉の消費を見直す動きが世界的に広がっています。植物由来の食品を積極的に取り入れる「プラントベース」もそのひとつ。オノデラグループのエグゼクティブシェフを務める杉浦仁志氏は、日本におけるプラントベースの普及を牽引してきた一人です。植物性素材だけで生み出すガストロノミーの豊かな世界を、ふれんちハンターが紹介いたします。
畜産業が地球に残す、大きな足跡
世界がプラントベースに注目する最大の理由は、畜産業が抱える環境負荷の大きさにあります。
牛のゲップなどに含まれるメタンガスは二酸化炭素の25倍もの温室効果があり、畜産業に由来する温室効果ガスは世界全体の排出量の約14.5%を占めるといわれています。さらに、牛肉1kgを育てるには11kgもの穀物が必要で、世界の土地の3割近くが、家畜の飼育や飼料栽培に使われています。
畜産への依存を減らすことが環境負荷の軽減に直結するため、プラントベースに大きな関心が集まっているのです。
仏教の教えを宿す、花束のサラダ
植物性素材の魅力を美食として表現するにあたり、杉浦シェフが着目したのは、日本が古くから育んできた菜食文化である精進料理でした。
ベジタリアン料理の世界大会「ザ・ベジタリアンチャンス」で入賞を果たしたシグネチャーディッシュ「Bouquet ブーケ」は、精進料理の定番である白和えをガストロノミーへと発展させたサラダです。
豆腐の白和えをベースに、ヘーゼルナッツや生姜を加えてフィリングを作り、円錐形に整えた根菜のマリネを差し込んで美しい花束に仕立てます。
ドレッシングには、天日干しにした乾燥えのきと干し椎茸から引いた「精進出汁」を使用。きのこのうま味とナッツの香ばしさを重ねることで、動物性の素材に頼らずとも、濃厚なコクを実現しました。
出汁を引いたあとのきのこは、刻んでフィリングに加えます。いただく命と、食に携わるすべての人々に感謝するという仏教の教えに則り、素材を無駄なく使い切る工夫です。

地球をかたどったデザートが伝えること
もう一品、地球を守る意識を視覚的に表現したのが、プラントベースのデザート「Earth アース」。
乳製品の代わりにアーモンドを用いた「ヴィーガンチョコレート」で地球形のケースを作り、その中に豆乳ガナッシュ、カシューナッツバター、栗と玄米のパフなどを忍ばせました。下に敷いたクランブルには小麦粉を使わず、米粉と豆乳で作ることでグルテンフリーにも対応しています。

地球形のチョコレートを開けると、アリッサムとペンタスの小さな花畑が現れます。
「一人ひとりの心がけ次第で、地球の美しい環境は維持できる」。そんな杉浦シェフからのメッセージが込められた一皿です。

プラントベースの実践は、決して肉食を否定するものではありません。週に一度、あるいは月に一度と、無理のない範囲で植物性の食事を取り入れる「フレキシタリアン」「ゆるベジ」という、しなやかなスタイルも広まっています。
まずは一皿、肉を休んで植物の奥深さを味わってみる。そのおいしい選択肢を提案することも、料理人にできるサステナビリティのひとつなのです。
【参考図書】
![]() |
★食品ロスを減らす ★持続可能性に配慮した野菜、魚介、肉類の活用 ★プラントベース食材を活用したメニューなどなど、 ■A4変・128ページ |
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