南国フルーツのおいしさを凝縮 デザート版パテ・アン・クルート【パイ包み焼き⑨】

フランス料理のロジックを軸にしながら、前衛的な表現で食べ手を魅了する「クラフタル」の大土橋真也シェフ。彼が提案するのは、セミドライのトロピカルフルーツをパート・ブリゼで包んだデザート版のパテ・アン・クルートです。言葉遊びを織り交ぜたエスプリの効いた一皿をふれんちハンターがご紹介します。
セミドライだから表現できるビアンキュイの魅力
パイ包み焼きといえば、生地と具材を同時にベストな状態へ焼き上げる「ジュストキュイの技術」が注目されがちです。しかし、大土橋シェフがこの料理で表現したいのは、生地をしっかり焼き込んだときに生まれる「ビアンキュイのおいしさ」。パイナップル、マンゴー、パパイヤ、そしてパプリカをセミドライにして重ねることで、しっかり焼き込んでも状態が変わらず、むしろ凝縮された甘みと香りが際立ちます。
ケイク型で焼き上げたひと口サイズの見た目と、ねっちりとしたファルスのおいしさは、台湾のパイナップルケーキへのオマージュでもあります。


ココナッツオイルで引き出すトロピカルな風味
パート・ブリゼは、バターの代わりにココナッツオイルを使ったオリジナルの配合です。ココナッツの香りがトロピカルフルーツと好相性なのはもちろん、バターの風味を排除することで、素材の風味がよりダイレクトに感じられます。さらに、ココナッツオイルは水分の含有量がバターよりも少なく、よりサクサクとした食感を得られるのも魅力です。
パティシエの語源にエスプリを効かせて
フルーツやパプリカは、クレーム・パティシールを薄く塗ってから重ねていきます。個性の強いパプリカの風味を穏やかにまとめながら、接着剤の役割も果たし、全体に一体感を生む隠れた名脇役です。
一説によると、パティシエの語源は詰め物料理を作る「パテ職人」から来ているといいます。そこからイメージを膨らませ、クレーム・パティシエールをクルートで包んだ料理、つまりパテ・アン・クルートという言葉遊びも取り入れました。
南国の太陽を閉じ込めたような鮮やかな断面に、大土橋シェフの遊び心が光ります。


【参考図書】
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伝統の味から革新の新作まで 本書では、老舗フレンチのスペシャリテから、気鋭シェフの最新作まで、パイ包み焼きのバリエーションを紹介。冷前菜・温前菜、魚料理、肉料理、デサートと、ジャンル別に、各店のパイ包み焼きの工夫、技術を解説します。 ■A4・128ページ |








