アルザスのエスプリを凝縮 カエルのブッシュ・ア・ラ・レーヌ【パイ包み焼き⑧】

フランス・アルザス地方で140年以上の歴史を誇る名店「オーベルジュ・ド・リル」。その海外初出店として誕生した「オーベルジュ・ド・リル ナゴヤ」で、統括料理長の中廣太一シェフが再構築した料理が、アルザスの郷土料理に店の代名詞であるカエルを融合させた「ブッシュ・ア・ラ・レーヌ」です。アルザスの風を感じる一皿をふれんちハンターがご紹介します。
ベースはアルザスの郷土料理
アルザス地方の伝統料理「ブッシュ・ア・ラ・レーヌ」は、パイケースに濃厚なクリームソースと鶏肉や魚介を詰めたブラッスリーの定番です。ソースを吸って柔らかくなったパイとソースの一体感は、オニオングラタンスープにも通じるおいしさがあり、中廣シェフがアルザスを訪れるたびに注文するほど愛してやまない料理です。
この料理をオーベルジュ・ド・リルらしく再構築するために、中廣シェフが選んだ食材がカエルです。オーベルジュ・ド・リルには、50年来愛され続けるスペシャリテ「グルヌイユのムースリーヌ“ポール・エーベルラン”」があり、カエル料理は店の象徴ともいえる存在。四方を山々に囲まれたアルザス地方ならではのこの食材を郷土料理に融合させることで、オーベルジュ・ド・リルの個性を際立たせています。


カエルとリースリングが紡ぐアルザスの味
具材には、カエルのムニエル、そら豆、スナップえんどう、アスパラガス、うるいのピュレを組み合わせ、春らしく仕立てています。カエルは足を切り離してチューリップ形に整え、たっぷりのバターで泳がせるように焼き上げます。リッチな風味でパイとの一体感を高めるのです。
クリームソースにはカエルの骨から取った出汁とリースリングワインを使用しています。リースリングは酸味が穏やかで、ハーブのような独特の香りとコクを持つアルザスを代表する白ワイン。このワインを加えることで、アルザスの風土がいっそう鮮やかに浮かび上がります。
カエルという店の個性と、リースリングというアルザスらしさを重ね合わせる。その味わいの奥に感じるのは、一族で店を営むエーベルラン家が代々大切にしてきたアルザスのテロワールです。140年を超える歴史が、このパイの中に凝縮されています。


アルザス地方イローゼン村、イル川の畔に佇む「オーベルジュ・ド・リル」
【参考図書】
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伝統の味から革新の新作まで 本書では、老舗フレンチのスペシャリテから、気鋭シェフの最新作まで、パイ包み焼きのバリエーションを紹介。冷前菜・温前菜、魚料理、肉料理、デサートと、ジャンル別に、各店のパイ包み焼きの工夫、技術を解説します。 ■A4・128ページ |









