素材の水分だけで蒸し煮にする うさぎのエチュベ【肉の火入れ技術⑨】

「エチュベ」は、素材自体の水分や少量の液体だけを加えて蒸し煮にする火入れ技術です。南青山にある「レストラン タニ」の谷利通シェフは、うさぎをエチュベにするさい、パン生地で鍋を密封して蒸気を逃さない独自の手法を用いています。素材の繊細な味を最大限に引き出す谷シェフの技術を、ふれんちハンターが詳しく解説いたします。
淡泊な肉に適した調理法
エチュベは、加える水分を必要最小限にとどめ、素材自体の水分と油脂分で蒸し煮にする調理法です。野菜を加えれば水分が出て蒸し煮しやすくなりますが、余計な甘みと香りがついてしまうため、谷シェフは使いません。肉だけで蒸し煮にすることで、素材の持ち味を純粋に引き出しています。
ただし、すべての肉種に使える方法ではありません。繊細で淡泊、かつゼラチン質の多い肉を選ぶのがポイントです。うさぎ肉は、淡泊で繊細な味わいとゼラチン質の豊かさを持ち、エチュベに最適な素材だといえます。また、身の引き締まった地鶏も適しています。
逆に豚肉は肉の臭みが引き出されてしまい、牛肉もこもった味になってしまうため不向きです。

パン生地で密封し、蒸気を逃さない
谷シェフのエチュベは野菜を加えないため、わずかな蒸気も逃さないことが重要です。そこで着目したのが、アルザス地方の郷土料理「ベッコフ」でした。
ベッコフは、肉やじゃがいも、玉ねぎなどを白ワインでマリネし、鍋で蒸し煮にする伝統料理。昔は、家庭で準備した鍋を村のパン屋へ預け、パンを焼くかまどで長時間調理してもらっていたといいます。この際、料理がよく煮えるよう、鍋と蓋の間に小麦粉で作った生地を巻きつけて密封していたのです。
谷シェフはこの手法をエチュベに応用し、食事用のゆるいパン生地で鍋を密封します。イーストが入ったパン生地はふくらみがよく、密閉効果が高いので水分を閉じ込めるのに効果的です。

低温の火入れで繊細な味を引き出す
使用する肉は、あらかじめマリネして真空にかけておきます。圧力をかけることで繊維が壊れ、柔らかくなって味がよくしみるからです。
鍋に肉を入れたら、白ワインとフォン・ド・ヴォライユを加えます。加える液体は必要最小限。長細く伸ばしたパン生地を鍋と蓋の間に巻きつけて密封し、オーブンで加熱します。
はじめは250℃の高温オーブンに入れ、パンを一気に膨らませて固めます。パンが焼き固まったら100℃に落とし、低温で3時間かけてやさしく火を入れます。ごく少量の液体と肉から出る水分だけで蒸し煮にすることで、うさぎの繊細な味を余すことなく引き出せるのです。

エチュベしたうさぎ肉は、ほぐしてフォアグラと組み合わせ、テリーヌに仕立てます。繊細な味を凝縮したうさぎは、淡白でありながら、濃厚なフォアグラの風味に負けない深みを持ちます。エチュベだからこそ味わえる、谷シェフ渾身のスペシャリテです。

【参考図書】
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フランス料理の基礎技術の中から「肉の火入れ」に特化し、30年以上の経験を持つベテランのフレンチシェフ5名に、ロティ、ポワレなど古典的な調理法を素材ごとに詳しく解説。 ■A4・112ページ |
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