感動のあとに、種明かしを 記憶に残るメッセージの届け方【持続可能なガストロノミー⑨】

持続可能性へのメッセージを、どうすればゲストの心へ届けられるのか。「クローニー」の春田理宏シェフがたどり着いた答えは、「まず、料理がおいしいこと」でした。二つ星とグリーンスターを併せ持つシェフが実践する、伝え方の流儀をふれんちハンターが紹介いたします。
「食材の背景」を知ることから始まる
「シェフになって10年ほどの間に、魚介類の価格は1.5倍に跳ね上がり、お気に入りだった野菜はある日突然届かなくなりました。理由を尋ねてみると、水産物の漁獲量は減り続け、高齢化と後継者不足で生産者が次々と廃業しているというのです」
ノルウェーのレストラン「Maaemo(マエモ)」での修業時代、スタッフ全員で有機野菜を育て、裏山にきのこや木の実を採りに行く日々を過ごしていた春田シェフ。ノルウェーにいた頃と比べて、日本では目の前にある食材についてきちんと把握できていなかったのではないだろうか……。食材の変化を突きつけられ、春田シェフは危機感を覚えました。
「おいしさの裏側を知りたい」
使っている素材の生育環境や生産方法を片っ端から調べ、自らが環境によいと確信できる食材、応援したいと思える生産者の食材だけを使おうと心に決めたといいます。

メッセージ性を持たせたコース展開
しかし、ただ選んだ食材を使うだけでは大きなムーブメントにはなりません。そこで春田シェフは、コース料理全体に持続可能性のメッセージを持たせるアプローチへと舵を切りました。
たとえば、有機栽培のにんじんを主役にした冷前菜。皮や端材をキャラメリゼし、オニオングラタンスープのように濃厚な甘みを持つスープに仕立ててかけています。廃棄ゼロを実現するだけでなく、端材がむしろ料理の味わいを深めているのです。

ウェルカムドリンクとして提供したほうじ茶も、二煎目でアイスクリームを作り、三煎目と残った茶葉をクランブルにしてデセールに仕立てます。最初のドリンクが、最後のデザートへと姿を変える。フードロスと食材の循環を自然と意識させるコース展開です。

感動したからこそ、メッセージは記憶に刻まれる
春田シェフがこれらの「サステナブルな背景」をゲストに語るのは、コースの終盤、ミニャルディーズ(小菓子)のタイミングです。
「食事の最初からサステナビリティを主張すれば、興味のない方はそこで耳を閉ざしてしまう。まず料理を存分に堪能していただき、お酒で気分がほぐれた頃合いを見計らってお話ししています」
メッセージを受け取ってもらうために一番大切なのは、料理がおいしいこと。料理に感動するからこそ、素材の背景やシェフの思いにも関心を持ってもらえます。印象に残る味とビジュアルで魅了し、最後にメッセージの種明かしをして記憶にとどめてもらう工夫です。
「帰り道にコンビニへ寄ったとき、『今日はあんな話を聞いたから、袋をもらうのは遠慮しておこう』。そんな小さな意識の変化が起きることを願っています」

【参考図書】
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★食品ロスを減らす ★持続可能性に配慮した野菜、魚介、肉類の活用 ★プラントベース食材を活用したメニューなどなど、 ■A4変・128ページ |







