完璧じゃなくていい「ほんの少し」のサステナブル【持続可能なガストロノミー⑩】

食の持続可能性について、料理人として早くから問題提起を続けてきた「フロリレージュ」の川手寛康シェフ。答えの出ない問いと向き合い続けた先に見えたのは、意外にも肩の力の抜けた、しなやかな考え方でした。料理人の背中をそっと押してくれる川手シェフの言葉と料理を、ふれんちハンターが紹介いたします。
答えを求めて、僧侶のもとへ
海洋資源の枯渇、土壌汚染、フードロス。2016年の「世界料理学会 in ARITA」で食の未来に警鐘を鳴らして以来、川手シェフは問題の大きさに向き合うほど、出口が見えない苦しさを抱えてきました。あまりに悩みすぎた末、交流のあった京都の僧侶のもとを訪ねたといいます。
精進料理にも精通する博識な彼なら、答えを持っているのではないか──、しかし返ってきたのは、意外な言葉でした。
「川手さん、それは無理ですよ。私だって同じように悩んでいます」
仏門に入った彼でさえ、解決策を持っていない。その言葉に、川手シェフはかえって救われたといいます。
科学者でもない一人の料理人が、すべてを背負ってもがいても仕方がない。みんなで少しずつ考え、少しずつ行動すればいい。「完璧を目指すのではなく、自分にできる『ほんの少し』を大切にしていこう」。そう思えるようになりました。

身近な野菜が主役の一皿
肩の力を抜いた一方で、決して妥協しないのが料理の「おいしさ」です。
近年、シェフが夢中になっているのは、身近な野菜を主役に据えること。たとえば、乾燥させた大根をみかん果汁と酒粕でマリネし、薄力粉をつけてムニエルにした一皿。皿の下にはさつまいものピュレを敷き、大根の端材を発酵させてホエーと混ぜ合わせたスープを注いでいます。一度乾燥させたことで甘みが増し、独特の食感へと変化した大根は、従来のイメージを鮮やかに覆します。

「和牛を凌駕するような大根料理を作れたなら。それって料理人として最高に魅力的ではありませんか?」
川手シェフはそう笑います。価値の低いものに新たな価値を与えるべく、おいしさを追求する。野菜の魅力が高まれば、肉に頼らない選択肢が広がり、自然とサステナブルな循環が生まれるのです。
ただし、「サステナブルだから60点の料理でも許されるだろう」という甘えは禁物だとシェフは釘を刺します。「サステナブル=おいしくない」という印象を与えてしまえば、かえって活動の勢いを止めてしまうからです。
楽しみながらはじめてみよう
素材と深く向き合い、隠れたポテンシャルを引き出す工夫も、料理人ならではの楽しみです。キャベツを丸ごと塩釜焼きにした大胆な一皿では、自家製のシュークルートとサワークリーム、すりおろしたカラスミを合わせました。酸味、塩味、うま味のパーツを重ねることで、キャベツ本来の甘みとみずみずしさを際立たせています。
シュークルートには、芯や端材をレモンと塩で一週間漬け込んだ発酵液を加え、フードロスを減らしながら酸味にも奥行きを持たせました。

「日本の料理人は完璧主義なところがあり、サステナブルをうたうからには『すべて完璧でなくては』と自分を追い詰めてしまいがち。しかし、完璧にできないからと全部を諦めるのが一番もったいない」と川手シェフは語ります。
海洋資源を守りたいからと、魚を一切使わないのではなく、今まで使ったことのない魚種を試してみる。野菜の比重をいつもより増やしてみる。バランスを少し整えるだけでいいのです。
肩の力を抜いて、楽しみながら。
ほんの少しでいいから、自分にできることを今日からはじめてみませんか。
【参考図書】
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★食品ロスを減らす ★持続可能性に配慮した野菜、魚介、肉類の活用 ★プラントベース食材を活用したメニューなどなど、 ■A4変・128ページ |







